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2025.11.18

コラム

日本の伝統釉薬の基礎ガイド ― 織部・志野・黄瀬戸の魅力 ―

日本の陶磁器文化は、地域ごとに異なる自然素材と技法が組み合わさることで、多彩な釉薬(ゆうやく)表現を発展させてきました。釉薬は器の表面を覆うガラス質の膜であり、色、質感、耐久性を大きく左右します。とりわけ織部、志野、黄瀬戸に代表される伝統釉薬は、長い歴史を持ちながらも、現代の食卓やインテリアにも調和する奥深さが魅力です。
本記事では、それぞれの釉薬が持つ特徴や背景を、専門性を保ちつつわかりやすく紹介します。

目次
1. 日本の釉薬文化とは
2. 織部(Oribe):深い緑が象徴する大胆な美意識
3. 志野(Shino):乳白色の柔らかさと素朴な温かみ
4. 黄瀬戸(Kiseto):落ち着いた黄褐色と上品な透明感
5. 釉薬が生み出す“個体差”という価値
6. おわりに:釉薬は日本文化を映す鏡

日本の釉薬文化とは

日本の釉薬は、灰、石、鉱物、土といった自然素材を原料とし、焼成時の温度や窯の環境によって多彩な表情を生み出します。
薪窯が主流だった中世から近世においては、炎や空気の流れによる偶然性が釉薬に独自の景色をもたらし、「一期一会」の美意識として育まれました。
こうした自然由来のゆらぎや個体差は、現代でも量産品にはない“手仕事ならではの味わい”として高く評価されています。

織部(Oribe):深い緑が象徴する大胆な美意識

織部釉は、安土桃山時代の武将・古田織部の美意識を反映した釉薬で、深い緑色が代表的です。
銅を含む釉薬が酸化焼成によって鮮やかな緑を発色させ、独特の濃淡や流れ模様が個性を生み出します。

【主な特徴】
・深緑〜黒緑、藍緑など豊かな色調
・非対称なフォルムや大胆な絵付けと好相性
・和洋問わず食材を引き立て、寿司・刺身から肉料理まで幅広くマッチ

織部釉は同じシリーズでも色の濃淡が大きく変わることがあり、こうした個体差そのものが魅力として親しまれています。

志野(Shino):乳白色の柔らかさと素朴な温かみ

志野は美濃焼を象徴する釉薬で、長石を主体とした釉薬を厚く掛けることによって生まれる柔らかな乳白色が特徴です。
焼成の過程で現れる小さなピンホールや淡いオレンジ色の“火色”が、ひとつひとつの器に異なる表情を与えます。

【主な特徴】
・厚みのあるマットな乳白釉
・柔らかく温かみのある質感
・火色・貫入・斑点など、焼成による自然な変化が魅力

ナチュラルテイストのインテリアや白基調のテーブルコーディネートともよく馴染み、ハンドクラフトの雰囲気を求めるニーズに適した釉薬です。

黄瀬戸(Kiseto):落ち着いた黄褐色と上品な透明感

黄瀬戸は室町時代から続く釉薬で、鉄分を含む透明釉が生み出すやさしい黄色が特徴です。
控えめで上品な色調は料理を邪魔せず、食材の自然な色を美しく引き立てます。

【主な特徴】
・黄褐色〜黄金色の柔らかい発色
・透明感のある上質な釉肌
・和洋どちらの料理とも合わせやすい

華美ではないものの、長く使うほど深まる落ち着きと上品さがあり、プロの料理人・店舗ディスプレイなどでも好まれています。

釉薬が生み出す“個体差”という価値

伝統釉薬の大きな魅力のひとつが、自然素材と焼成環境に由来する個体差です。

  • 色の濃淡
  • 釉薬の流れや溜まり
  • 炎の当たり方による発色の違い
  • 手仕事によるゆらぎ

これらが組み合わさり、同じ釉薬・同じ窯であっても、まったく同じ表情の器は存在しません。
こうした“唯一無二の表情”は、近年ますます価値として認識されつつあります。

おわりに:釉薬は日本文化を映す鏡

織部、志野、黄瀬戸はいずれも、単なる装飾ではなく日本の自然、歴史、美意識が融合して生まれた表現です。
釉薬を知ることは、日本の陶磁器文化を理解する手がかりにもなります。
伝統釉薬が持つ奥深い魅力は、これからも多くの食卓や暮らしの中で新しい美しさを生み続けていくことでしょう。

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