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2025.05.30

コラム

輪島塗とは?分業制が支える受け継がれる匠の技

目次
1. はじめに
2. 輪島塗の特徴と3つの技法
3. 輪島塗の歴史
4. 伝統の継承と課題
5. さいごに

はじめに

大阪・関西万博にて、輪島塗の地球儀「夜の地球 Earth at Night」が展示されています。直径1メートル、重さ215キログラムのこの作品は、宇宙から見た地球の夜景を表現しており、漆黒の地球儀に金色の輝きを纏った蒔絵と沈金による幻想的な美しさが特徴です。
輪島塗は、石川県輪島市で生産される漆器で、堅牢さと艶やかな質感、そして華やかな意匠が魅力です。お椀やお盆、重箱など、日常の暮らしに溶け込むさまざまな製品が生み出されてきました。その製造工程は 120以上にも及び、熟練の職人による8職の分業で成り立っています。
しかし、輪島市は2024年の能登半島地震および奥能登豪雨により甚大な被害を受けました。輪島塗の地球儀は2022年3月に完成し、災害時には石川県輪島漆芸美術館に展示されていましたが、奇跡的に無傷で残ったことから「復興のシンボルの一つ」として位置づけられています。
今回のコラムでは、そんな輪島塗の特徴、歴史、今後の課題についてご紹介します。

輪島塗の特徴と3つの技法

輪島塗は天然の木材と漆を使い、完全分業制で作られます。地の粉、布着せ、沈金という3つの技法による、際立つ堅牢さと華やかな仕上がりが特徴です。

地の粉(じのこ/ぢのこ)

一般的な漆器は木地に直接漆を塗って仕上げますが、輪島塗では「地の粉」と呼ばれる土を下地に使用します。「地の粉」は輪島市内の小峰山で採れる珪藻土の一種で、漆と混ぜて何層にも塗り重ねることで、衝撃や摩耗に非常に強い漆器が完成します。

布着せ(ぬのぎせ)

お椀の縁や底などに、生漆と米糊を混ぜた 「着せ物漆」 を使って布を貼り付ける技法です。これにより、ひび割れや欠けを防ぐだけでなく、水分が木地へ浸透するのを防ぎます。布と木地を強く密着させることで、より丈夫な仕上がりになります。

沈金(ちんきん)

沈金は、輪島で確立された装飾技法 の一つです。漆面に彫刻刀で繊細な文様を刻み、溝に漆を擦り込んで金粉や銀粉を埋め込むことで、華麗な模様を生み出します。この技法により、立体感のある美しい装飾が可能になります。

輪島塗の歴史

◇起源
能登半島では古くから漆器づくりが行われており、その歴史は縄文時代にまで遡ります。輪島市でも平安時代の遺跡から漆製品が見つかっています。輪島塗の起源ははっきりとしていませんが、室町時代の遺跡から地の粉を使った椀が出土しています。また、1524年に、現存する最古の輪島塗とされる重蔵神社の朱塗扉が作られています。これらのことから、室町時代には現代の輪島塗の原型となる技術が生まれていたと考えられます。

◇江戸時代の発展
江戸時代前期には、地の粉を漆に混ぜて作る輪島塗の伝統技法が確立されました。この技術により、輪島塗は堅牢な漆器としての評価を確立し、全国に広まりました。

◇明治時代以降
明治時代になると、輪島塗はさらに発展し、国内外の博覧会 へ出品されるようになりました。1975年(昭和50年)には当時の通商産業省による伝統的工芸品に、1977年(昭和52年)には全国の漆器で初の重要無形文化財に指定されました。現代でも輪島塗は伝統を守りつつ、日常使いしやすいデザインやモダンな作品も登場し、幅広い世代に親しまれています。

伝統の継承と課題

現在の輪島塗の課題は、震災からの復興と職人の高齢化です。2024年1月に発生した能登半島地震では、輪島漆器商工業協同組合に加盟の103社のうち13社が消失し、50社が全半壊、その他ほとんど全ての工房が被害を受けました。職人の多くは住居と作業場が一体化した環境で仕事をしていたため、日常生活の立て直しから取り組む必要がありました。
さらに、同年9月には奥能登豪雨が発生し、輪島市の住民は厳しい状況に直面しています。加えて、職人の高齢化による後継者不足の問題も深刻で、災害をきっかけに閉業を決断する職人も少なくありません。輪島塗は分業制で作られるため、一人でも職人が欠けると生産が困難になり、存続の危機にあります。
これに対し、石川県は2027年度までに、若手の人材育成に向けた新たな施設を設ける方針を明らかにしました。輪島塗事業者が若手職人を成する余裕がなくなっているため、官民と産地が共同して若者を呼び込み、国内外に輪島塗を発信することを目指しています。

▼能登半島地震による被害(石川県ホームページから)

▼奥能登豪雨による被害(石川県ホームページから)

さいごに

輪島塗は、長い歴史と卓越した技術によって支えられた、日本を代表する伝統工芸のひとつです。その美しさと実用性は、職人たちの情熱と努力によって守られ、受け継がれてきました。しかし、近年の震災や職人の高齢化により、その存続が危ぶまれています。
大阪・関西万博で展示されている輪島塗の地球儀「夜の地球」は、まさに伝統と未来をつなぐ象徴です。この作品が世界へ発信されることで、輪島塗の価値が広く認識され、後継者育成や復興の動きが加速することを期待したいところです。
歴史ある輪島塗が、これからも多くの人の手に届き、日々の生活の中で輝き続けるよう願っています。

(参考)
輪島塗大型地球儀「夜の地球 Earth at Night」の展示について | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
輪島塗の若手人材の養成施設の整備等に関する基本構想策定委員会について | 石川県
石川県ホームページ

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