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2024.06.25
コラム
山中漆器とは?生産量日本一の美しい木目の漆器
石川県には、「木地の山中」、「塗りの輪島」、「蒔絵の金沢」と呼ばれる、漆器の三大産地があります。今回は、その中の一つである「木地の山中」、すなわち山中漆器(山中塗)についてご紹介いたします。
目次
1. 山中漆器とは?
2. 木地の山中の歴史
3. 山中漆器の特徴
_3.1. 縦木取り
_3.2. 加飾挽き
_3.3. 拭き漆
_3.4. 高蒔絵
4. さいごに
山中漆器とは?
山中塗とも呼ばれる山中漆器は、石川県最南端に位置する加賀市の山中温泉地区で生産されています。1975年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品に認定された、日本を代表する工芸品の一つです。普段使いの器として人気があり、漆器として、日本一の生産量および生産額を誇ります。
山中漆器に限らず漆器は一般に、木地師(きじし:器などを形成する)、下地師(したじし:下地を塗る)、塗師(ぬし:漆を塗る)、蒔絵師(まきえし:装飾をする)などといった職人による分業でつくられます。山中温泉地区は、他の漆器の産地と比べて木地師が特に多い産地であるという特徴があります。これには山中漆器の歴史が関係しています。
木地の山中の歴史
山中漆器の始まりは、今からおよそ450年前の安土桃山時代に遡ります。挽物(ひきもの:用材を回転させ、これに刃物を当てて加工した椀や盆など)を作って生計を立てていた木地師の集団が、越前(現在の福井県東北部)の山間部から、山中温泉上流の真砂(まなご)地区に移住したことが始まりです。ろくろ挽物の技術がこの地に伝わったことで、「木地の山中」と呼ばれる山中漆器の基礎が築かれました。当時はまだ漆器の技術がなく、温泉土産として挽物が販売されていましたが、江戸時代に金沢や京都、会津から漆塗りや蒔絵の技術が伝わり、山中漆器として発展していきました。
明治時代までは、木地の製作には紐を引いて回す人力のろくろを使用していましたが、大正時代に電動ろくろが登場したことにより、生産量が飛躍的に増えていきました。昭和30年代には、木製漆器に加えてプラスチックの素材を取り入れた近代漆器が生産されるようになりました。第2次世界大戦により一時生産が中断された時期もありましたが、現代までの400年以上にわたり発展を遂げ続け、今では食器やインテリア用品、ブライダル等のギフトなどとしても人気な、日本一の生産量・生産額を誇る漆器となりました。
山中漆器の特徴
山中漆器の最大の特徴は、木目を生かした自然な風合いです。木目の美しさを最大限に引き立てるための特徴的な技法が4つあります。
縦木取り
一つ目は、「縦木取り」です。器をつくるとき、多くの場合は原木をスライスして板状にしてから木取り(器の荒型を取ること)をする、横木取りという方法が用いられます。ところが、山中漆器では、縦木取りで木取りをするのが特徴です。縦木取りは、縦方向、つまり年輪に対して平行の向きで切り出す方法で、原木を輪切りにしたものから木取りをします。横木取りに比べ、木が育った方向に逆らわずに加工できるため、丈夫で、木質の狂いや歪みが出にくいという利点があります。そのため、木地が透けるほど薄い「薄挽き」や本体と蓋がぴったりと合う必要のある「蓋物」などといった精巧なつくりのものも得意とします。他の漆器の産地では、横木取りを採用していることが多く、縦木取りは山中漆器独自の手法です。縦木取りでは、大きな物を作ることは難しいため、お椀や茶托、棗など、丸くて小さめのものが山中漆器に代表されます。材料には、国産のケヤキやトチ、サクラ、クリといった堅牢な木材が採用されています。
加飾挽き
次に、「加飾挽き」です。加飾挽きとは、ろくろを回しながら、木地の表面に刃物を当てて模様を付けることです。その種類・技法は50種類以上にも及びます。下記は、代表される技法のごく一部です。どれも非常に繊細な装飾で、職人の技です。
-筋挽:平行に細かな筋目を入れる
-千筋:一本ずつ均等な幅で細い筋を引く
-荒筋:荒々しくランダムに筋を入れる
-毛筋/糸目:針状のもので細く繊細な筋を入れる
-トビ筋:かんなの刃先が跳ねながら削る
-稲穂挽き:稲穂の模様のように削る
拭き漆
三つ目の技法は、「拭き漆」です。「摺り漆」と呼ばれることもあるこの技法では、漆を染み込ませた布で木地を拭き(擦り込み)、乾燥させるという流れを繰り返します。この方法により、漆は非常に薄く塗布されます。何度も塗り重ねることで、段々と艶が出て強度が増し、木目がよく見える状態での仕上がりとなります。全く同じ木目の見え方をする器はありませんので、完成した品は唯一無二のものです。
また、木目がよく見えるということは、木地の仕上げの技術が求められます。より完成度の高い品を作るため、多くの木地職人はカンナなどの刃物を、自ら鋼を鍛造して作り、目的や形状に応じた大小30種ほどの刃物を使い分けます。しかし実際、いくら道具にこだわっても木材は固さや繊維の方向などの性質は一つ一つ異なります。そのような木の性質を瞬時に見抜くことができるのが、木地師の熟練の技です。
高蒔絵
これまで紹介したように、シンプルで木目を生かした、温もりのある器が特徴の山中漆器ですが、優雅な蒔絵の美しさも芸術的価値として認められています。蒔絵の中にも種類がありますが、山中漆器で有名なのは「高蒔絵」です。
高蒔絵とはその名の通り、蒔絵部分を下地よりも高く盛り上げ、立体感を出した蒔絵の技法です。高く盛り上げる方法はいくつかあります。蒔絵部分に漆を厚く塗った「漆上げ」、この上に炭粉を蒔いてさらに盛り上げる「炭粉上げ」、錆と漆を混ぜた錆漆で高さを出す「錆上げ」などです。高蒔絵では、このように蒔絵部分を高く盛り上げ、その上から他の蒔絵と同じように蒔絵を書きます。そのため、他の蒔絵技法に比べ、より多くの工程が必要で、高い技術と時間と労力が必要とされます。そんな手間をかけてできる高蒔絵は、見た目にも感触にも、立体的で遠近感のある、高級で重厚な仕上がりとなります。
さいごに
今回は、石川県の三大漆器の一つである木地の山中すなわち山中漆器について、ご紹介いたしました。木目の美しさを生かした木地作りや漆塗りの技術、装飾方法についてお分かりいただけたかと思います。山中温泉を訪れる際には、是非山中漆器にも注目してみると、一層山中温泉をお楽しみいただけるのではないでしょうか。
井元産業では、漆器はもちろん、他にも様々な食器、キッチン用品、雑貨などを取り扱っております。
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