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2023.09.15

コラム

包丁の材料としての、鉄のはなし

目次
1. そもそも鉄とは?
2. 鉄の成り立ち
3. 刃物に適した鉄とは?
4. 鉄の欠点を克服した素材、ステンレス鋼
5. 刃物に使われるステンレス鋼

そもそも鉄とは?

現代生活は多くの鉄製品に囲まれている。鉄は埋蔵量が豊富で偏在しておらず、その性質としては硬度、摩耗性に優れている。更に他の金属と混ぜたり結晶構造を変化させたりすることにより、様々な特性を変化させることができる、非常に便利な素材である。鉄無くしては、人類が現在のような文明社会を築き上げることは出来なかった、とも言える。

鉄の成り立ち

鉄が豊富に自然界に存在するのには天文物理学的な理由がある。太陽のような恒星は主に水素をヘリウムへと核融合することによりエネルギーを生成、放出している。水素を使い果たすと、今度はヘリウムをリチウムやベリリウムなどのより重い元素へと変換する核融合反応を起こし、最終的には鉄を生成して核融合反応を終了する。鉄は物理的に安定した物質で、鉄と他の物質と核融合させても、すぐに核分裂反応を起こして鉄に戻ってしまう。そしてその大量に作られた鉄は、大きな恒星だと最後に超新星爆発を起こして全宇宙に放出され、地球などの星が作られる材料となる。そのため地球を構成する元素の中で鉄はおよそ30%とダントツに多い。残念ながら比重が高いためほとんどは地球の中心部に存在しているが、我々が利用することのできる地殻にも、十分に豊富な鉄が存在してくれている。

刃物に適した鉄とは?

現代の包丁は、ほとんどが鉄で作られている。(一部セラミック製のものもあるが。)
鉄は自然界ではたいてい鉄鉱石(酸化鉄)の形で存在しており、利用するためには、木炭や石炭などの炭素と一緒に高温で加熱し、酸素を取り除くこと(製鉄)が必要である。(還元作用。)

通常の製鉄方法で作られた鉄は、炭素が4~5%程度含まれる鋳鉄(ちゅうてつ)と呼ばれるものであり、これは南部鉄器の素材でもある。鋳鉄は割れたりする脆さがあるため、刃物として使うには適さない。包丁に適したものにするためには、更に炭素を取り除いた鋼(鋼鉄)へと製錬する必要がある。

このように、炭素含有量は鉄の性質を大きく左右するため、刃物だけでなく工具に使用する場合など、用途に応じて様々な炭素含有量の鉄鋼製品が作られている。

鉄の欠点を克服した素材、ステンレス鋼

鉄は非常に便利で作りやすく、使いやすい素材であるが、酸化しやすい(錆びる)という欠点がある。20世紀に入り金属技術が発展してくると、クロームと混ぜた鉄が対酸化性にすぐれていることから一気に普及した。これがステンレス鋼であり。現在では一般的な家庭で使われている包丁はほとんどこのステンレス製でしょう。

ステンレスはクロームを13%以上含むという基準があるが、一口にステンレスを言っても、クローム以外にニッケルや、モリブデン、バナジウム等のいろいろな種類の元素を添加することで特性が変化し、用途別に様々なものが開発されている。JASの分類でも100種類以上のステンレス製品がある。更にJAS規格とは別に、各製鉄メーカーがよりその使用用途に適した製品を開発している。

刃物に使用されるためには、硬度、対摩耗性、対腐食性、粘性(しなり)などの性質が必要であり、例えば建築材、自動車に使われたり、鍋やスプーンなどに使われているものとは別の種類の、より高い性能のステンレス鋼が用いられている。

刃物に使われるステンレス鋼の種類

刃物に使われている代表的なステンレス鋼は下記のようなものがある。

・420j2  : もっとも普及している素材だが、硬度が比較的低い
・AUS-8 : モリブデンが添加され、高い硬度としなやかさを兼ね備える
・VG-10 : 高級包丁用としてわざわざ開発された素材で高い性能を持つ

ただ、同じ材料でも結晶構造を変化させることにより、その性質が大きく変わってきます。結晶構造を変化させる工程として、焼き入れ、焼き戻し、焼きなまし、鍛造などの工程があるのですが、それについて説明すると長い話になってしまいますので、またの機会に。

 

井元産業では、多種多様な日本の包丁、陶磁器、日用雑貨などを扱っております。詳しくは「取引実績・商品」ページをご覧ください。

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